父子の絆をつないだユウカイ旅行

夏休みの宿題の定番と言えば、読書感想文。本を読むのもさることながら、感想文を書かされることに、頭が痛む思いをされた方も少なくないと思います。私も、子どもの頃はそれほど本に親しんでいた訳ではないので、選書の段階から色々と悩んだ記憶が今でも残ります。


このサイトでは、私が読んだ本の中でお子様や保護者の皆様に役立ったり、共感してもらえるものをご紹介したいと考えています。今回は、読書感想にはうってつけの一冊をご紹介。つい先日、NHK総合でドラマ化された「キッドナップ・ツアー(角田光代著)」です。


本作は、中学受験で国語の問題文に幾度か採用されたため、ずっと気になっていました。書店ではなかなか見かけなかったのですが、今回のドラマ化を契機に文庫が出たようで、迷わず購入。読了後にドラマを見ることを決め、すぐさま作品の世界に浸ることにしました。


主人公ハルは小学5年生の女の子。両親は離婚しており、夏休みの初日に実の父親にユウカイされる場面から、物語は始まります。実は、父親がなぜ実の娘をユウカイするに至ったのか、その理由は最後まで明らかになりません。元妻(ハルの母)を相手に「交渉」をしているのですが、その内容も明らかにされず。読者は、謎を抱えたまま物語が進みます。


最初は、なかなか溝が埋まらない父子。母とその姉妹への思いを抱きつつ、一方で反発を感じる微妙な気持ちが、父との奇妙なユウカイ旅行を支えます。しかし、お互いの行き違いが原因で、ある事件が勃発。それを契機に、擦れ違っていた父子の気持ちが重なり始めます。


角田光代氏の作品は、登場人物の心情が細かい襞に至るまで感じられる表現に特徴があります。本作でも、最後までユウカイの詳細が明かされないのですが、父子の絆を築くのに必要ないことは、あえて描かず、あくまでも父子の気持ちのやり取りにフォーカスしています。それが物語に深みを与え、ありがちなテーマに見られる予定調和を見事に排除しています。


何だか評論家じみたことを言いましたが、年頃に差し掛かる女子が父親に抱く複雑な気持ちと、そこから生まれる絆と思いが感じられる良い作品です。様々な家族の姿を知ることで、お子様にとっての家族の意味を考えるきっかけになることでしょう。中学受験で頻出するのも、家族というテーマの重要性を分かりやすく問いかけるためです。短い作品ですので、まだ読書感想文の選書が済んでいない方にお薦めします。

普通の子が大きく変わる学習のすゝめ

プロ講師としての経験をもとに、普通の子が大きく伸びる学習を提案します。

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